8.望遠鏡の手入れと保管
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 初めての望遠鏡を買いました。大事にしましょう。
 どう、大事にすればいいんでしょう?

 天体望遠鏡も、たまに夜露でびしょ濡れになったり、黄砂や花粉に降られたり、いつ誰が触ったんだかわからない指紋が付けられてたりと、何かと大変です。
 汚れたら、キレイにしたくなります。大事なものですから。
 そこでストップ
 間違っても、ティッシュなどでレンズや鏡を拭いたりしてはいけません。ええ、いけません。鉄則です。
 それじゃあ、メガネ拭きみたいなレンズ用の布で拭けばいいんだろう、と思ったら大間違いです。正しくありません。間違っています。

 んじゃ、どーすりゃいいんだ?という事になりますが…
 (えーと、とりあえず、鏡筒部分は普通にキレイにして下さい。鏡筒は普通です。大丈夫です。)

 さて、屈折望遠鏡ならレンズ、反射望遠鏡なら、ですが。
 基本的に、うかつな掃除はしません。少しくらいのホコリなら、ブロアでプシュプシュと吹き飛ばすだけで済ませます。(掃除しない、という意味ではありません。)
 レンズに付いた花粉や指紋などはブロアなんかじゃ取れなくて、放置するのも気がひける厄介なものですが、そういった汚れの場合には、レンズクリーニング液や無水アルコールなどをレンズクリーニングペーパー等に染み込ませ、レンズに力を入れないように拭き取ります。拭き取った後の乾拭きなどは、原則としてしません。(クリーニングペーパーは、塗り広げ用と拭き上げ用で別にしておけば作業も楽で確実です。ティッシュ等は使えません)
 どうしてもしつこい汚れがあって気になる場合には、メーカーもしくはメンテができるショップ送りにします。
 天体望遠鏡のレンズというのは、それくらい神経質に扱う必要がある物なのです。メガネのレンズなどと一緒に考えてはいけません

 反射望遠鏡の場合は、鏡を取り外して、流水(と場合によっては石鹸を含ませた脱脂綿)で洗い流し、水道水の中の不純物が残らない様に、仕上げに蒸留水で流して水切りをし、陰干しで乾かします。(汚れの種類にもよりますが、アルコールでは取れない汚れがあります)
 けっこう面倒です。
 でも、こういう風にしないと、望遠鏡の鏡は、普通の鏡の様にガラスの裏にメッキがしてあるのではなく、ガラスの表面に真空蒸着の超デリケートな光学メッキが施されているので、いとも簡単に傷が付いてしまいます。鏡の面の精度は、光の波長の1/4とか1/8とかそれより細かい精度で管理されているので、メッキ面の傷は致命的です。酷くなると乱反射を起こしてしまいます。

 以上のように、望遠鏡を扱う時は注意しましょう。クリーニング修理は、ほぼ同義です。

 もちろん、保管する時も気を付けなくてはいけません。
 変な状態で”大事に保管”すると、よくある、「レンズにカビ」が発生してしまいます。こうなると、完全に修理です。
 カビというのは、ほとんどの場合は湿度の高い所に発生します。
 ホコリが付いたままのレンズの上に夜露までかぶって、使い終わったらレンズキャップをして、そのまま暖かい室内で保管、では、カビを養殖している様なものです。
 運搬中などはレンズキャップをしておいた方が安全ですが、家の中に帰ってきたら、レンズキャップを外して放置・乾燥させます。乾燥させてる間に鏡筒の掃除をしてもいいでしょう。

 程良く乾燥したら、防カビ乾燥剤と一緒にしてケースやバッグ(あるいはビニール袋)に保管します。律儀にファスナー付き布団圧縮袋みたいな密封は必要ありません、ホコリ避けがメインと思って下さい。架台から外して保管する場合は、鏡筒部分を抱える形で土台を作って横にするか(ダンボールで自作とかでいいです)、もしくは三脚と一緒に真っ直ぐ立てて置きます。壁にナナメに立てかけて保管したりすると屈折望遠鏡でも歪みが生じるので気をつけて下さい。

 アイピースも、アイピースや天頂プリズム、フィルター類などをまとめてアクセサリケース(と称した適当なボックス)に収納している事も多いでしょうが、アクセサリケースの中に防カビ乾燥剤を入れておきながら、アイピースには律儀にキャップをして収納、だと観望・観測で使った時の夜露などを閉じ込めた状態で収納してしまう事になるので、あえてキャップを外して収納しておくのも手です。たまに投影法などで太陽観測なんかに使ってみたりすると、アイピースの中に付着してるかもしれないカビや菌類は簡単に死滅しちゃうでしょう。(安物のアイピースだとアイピースが死滅する事もあるので、そのへんは気をつけましょう。)

 鏡筒を買った時のダンボール箱(と発泡スチロール)をそのまま保管用に使う方法もありますが、けっこう場所を取るので保管スペースと相談して下さい。運搬には安全ですが、出し入れは面倒です。ダンボール箱より強度があって多少は小さい、適度な大きさの工具箱やRVボックスなどを見つけてきてスポンジやウレタンフォームなどで内部を整えて鏡筒ケースにする人も多いです。RVボックスはホームセンターやカー用品店などで売っていますが、「これ」というサイズを見つけるには、何軒かハシゴしてみて下さい。筆者は衣装収納BOX(ハシゴして適した大きさのを発見)を杉の端材で補強して、ウレタンフォームで形を作って大型対空双眼鏡を保管しています。
 架台に載せたまま保管する場合は、鏡筒が真っ直ぐ縦になる様な状態にして、ビニールなどを被せてホコリを防いでおくといいでしょう。というか、その置き方が一番スペースを取らないと思います。
 防カビ乾燥剤はカメラ屋に行けばパック入りで売ってます。秋頃の気温が低くなってきた頃や、寒暖の差の大きい場所で使用していると、鏡筒の中の湿気が結露を始める事もあるので、接眼部から乾燥剤を突っ込んでおくと、内部の湿気も取ってくれるでしょう。対物キャップの裏にも乾燥剤を仕込んでおくと万全ですが、乾燥剤が落ちてレンズや鏡に傷を入れないように注意しましょう。(テープでは落ちます)
 もちろん乾燥剤も無限に水分を吸収できる訳ではないので、定期的に交換して下さい。シリカゲルは強制乾燥すれば再使用できますが、湿気を取る力は、生石灰を使った物の方が強力な模様です。(押し入れの湿気を取る除湿パックもありますが、アレは光学機器とはいまひとつ相性が良くないという話もあります。)
 で、たまには夜間だけでなく、日中にも持ち出して、太陽光に当ててやります。太陽光と新鮮な空気で殺菌・乾燥、いわゆる虫干しです。(それで放置してて花粉とか鳥のフンとか付いたらあまり意味無いので、程々で。)

 よく「大事に保管してたのに、レンズがカビだらけに…」という望遠鏡やカメラレンズを見かけますが、それは「大事に保管していた」というより「使わず密閉状態で放置していた」と言った方が近いですね。(オークション出品物によくありますね。)
 要は、望遠鏡を手に入れたんなら、使え!という事です。乗らない車ほど調子が悪い、と良く言いますが、使わない望遠鏡も似たようなもんです、使えば普通に換気になりますし、異常にも気付きやすくなります。ていうか、使え

 鏡筒の手入れと保管は、だいたいこんな具合ですが、アイピースも同じです。ゴシゴシ拭いたりしないようにして、乾燥剤と一緒に保管しましょう。
 アイピースのアイレンズ(覗く側に面したレンズ)は、けっこう頻繁に睫毛に付いた皮脂油が、稀にマスカラっぽい何かが付着している事もあります。対物レンズなどより頻繁にクリーニングする必要が出てきますが、
1.まずブロアやエアダスターで飛ばせるホコリは吹き飛ばして
2.クリーニング液を使ってやさしくクリーニング
3.仕上げにエアで飛ばして終了
という手順を守って下さい。ホコリを吹き飛ばさずにいきなり拭き取り作業をすると、コーティングにすぐ傷が入ります。
 アイピースの場合は、クリーニングペーパーの他に、綿棒を使用するといいでしょう。綿棒の先にクリーニング液を少しだけ含ませて、滑らせるくらいの力加減でクリーニングすれば大概の汚れは落ちます。クリーニング液を直接アイピースに垂らすと液が内部に浸透して惨事になる場合もあるので要注意です。クリーニング液はペーパーや綿棒の方に少量含ませて使って下さい。
 クリーニング液や無水アルコールで拭いた後に、少し拭きムラのようなものが残る事はありますが、あまり神経質になると、傷をつけるまで拭いてしまう事になるので、若干アバウトになるのも必要です。

 望遠鏡ショップから、レンズや鏡の専用クリーナーが、カメラ店では、マニアに絶大な支持を誇るレンズクリーナーが売られているので、これを利用するのも手ですが、強力なクリーナーは、それだけリスクも伴いますので、口コミなどの下調べはした方が良いかもしれません。
 あるショップで売られている、鏡に液を塗って、乾いてから剥がすとそのままホコリや汚れも取り除いてくれる、というクリーナーは、汚れと一緒に鏡のメッキまで持って行かれた、という体験談もあります。(ただの噂かもしれない、と思ったら、説明書にしっかり書いてありました。)実際、気になっていた拭きムラまでも綺麗に除去できるのですが、使い方には若干の慣れとコツと勘が必要なので、初心者にはお勧めしません。

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