6.鏡筒とかアイピースとか
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 天体望遠鏡は、「鏡筒」と「架台」の組合せと先述しましたが、鏡筒と同じ位に重要なものが、もうひとつ。「アイピース」(接眼レンズ)です。
 正確には、鏡筒とアイピースがあって、初めて望遠鏡として使える訳で、アイピースも望遠鏡の一部と言えます。(オマケではありません)

 アイピースには、文字通り腐るほどの種類が販売されていますが、まず基本的な事は、望遠鏡はアイピースとの組合せで倍率を決めて使う、という事です。
 これには、次の計算式を使います。
 鏡筒の焦点距離÷アイピースの焦点距離=倍率
 焦点距離910mmの鏡筒に、6mmのアイピースを使ったら、910÷6=約151倍、という具合です。簡単です。暗算でもできます。多分。
 逆に、今ある望遠鏡で欲しい倍率を出したい時のアイピースの選び方、といった場合、例えば焦点距離910mmの鏡筒で、75倍を出したい、という時は、
 鏡筒の焦点距離÷倍率=アイピースの焦点距離、なので、910÷75=約12mmのアイピース、という事になりますね。
 フィールドスコープなどのアイピースには倍率が書いてある事が多いですが、天体望遠鏡のアイピースに倍率が書かれていないのは、同じアイピースでも別の望遠鏡に取り付けると倍率が変わるからです。上の例では6mmアイピースを焦点距離910mmの鏡筒に取り付けたら約151倍、という計算でしたが、同じアイピースを焦点距離500mmのコンパクトな望遠鏡に取り付けると、500÷6=約83倍、となります。同じアイピースでも組み合わせる鏡筒によって用途そのものが変わってくる事もあります。

 更に、鏡筒の口径も倍率に関わってきます。
 一般に、望遠鏡の適正倍率は、口径mmと同じ位、限界倍率(極限倍率)は口径mmの2〜2.5倍位、などと言われます。これは望遠鏡の精度や、そもそもの望遠鏡の設計(F値など)にも左右されますが、あまり倍率を上げても、鏡筒のレンズの方の分解能が追いついてこなくなる(過剰倍率)のです。(「ドーズの限界」といって、この理屈を経験則からまとめた、目安的な計算式もあります)
 分解能とは、分かりやすく言い換えれば解像度みたいなものですが、解像度の低い像をいくら拡大しても、決して鮮明にはならないのと同じで、無闇に倍率を上げてもただボヤけて見難くなるだけ、という結果にもなってしまいます。おまけに望遠鏡の像は拡大するに従って暗くなっていくので、「暗くボケる」という二重苦になります。
 安価な短焦点鏡筒にこの傾向が多く見られますが、そもそも短焦点鏡筒は、焦点距離の短さを逆に活かした低倍率広い実視野を確保する星雲・銀河ウォッチ用(別名RFT=リッチ・フィールド・テレスコープ)としての用途がメインです。
 長焦点の鏡筒は、上記の倍率計算式から考えても解る通り、低い倍率を出そうとすると逆に不利となります。短焦点鏡筒と長焦点鏡筒が並行して売られているのは、単に取り回しの問題だけでなく、使い分けのシーンが存在するからです。
 惑星や二重星などの観察には、150〜250倍くらい欲しい時がありますが、星雲や銀河、彗星の観察には、10〜30倍といった低倍率が欲しくなります。小型短焦点のMADE IN CHINAの自称入門機が225倍とか出しても使い物にならない一方で、「大は小を兼ねる」と思って奮発して買った大型望遠鏡では星雲や彗星の観察がうまくいかない、という事態も発生する訳です。
 もちろん、いい素材で精度良く造られた短焦点鏡筒であれば十分な倍率をかけられますが、今度はその為のアイピース選びの方が難しいかもしれません。鏡筒とアイピースは、持ちつ持たれつの間柄なのです。

 望遠鏡セットには、通常2〜3本のアイピースが付属してきます。場合によっては、バローレンズを使って鏡筒の合成焦点距離を伸ばすことで、倍率のバリエーションを増やしている場合もあります。
 、バローレンズは案外気難しいパーツで、多くの場合、付属品のバローレンズは「おまけ」です。
 単体で定評があるのは、笠井トレーディングの3枚玉ショートバローやビクセンの2倍バローレンズDX、テレビューのパワーメイト等ですが、「へぇ、そんな高いレンズがおまけで付いてきたのか♥ラッキー」ではなく、おまけはあくまでおまけ、おまけで付けられる程度のコストの気休めパーツです。(質の悪いバローレンズを使って星を覗くと、ピントが合ってるのか合ってないのかわからなくてイライラします。)
 中〜上級者のバローレンズの使い方は、短焦点アイピースにバローレンズを組み合わせて高倍率を出す為ではなく、中〜長焦点アイピースにバローレンズを組み合わせて、倍率の割には覗きやすい状態を作る為、という場合が多いです。最近多いスマイスレンズ入りアイピース(UWやLV、LVW、ハイペリオンなど)というのは、最初から最適化したバローレンズを組み合わせて覗きやすくしたアイピース、と考えると理解しやすいでしょう。

 ところで、すでに望遠鏡を入手しているという仮定で尋ねますが、付属してきたアイピース。覗きやすいですか?
 最近は安価な鏡筒にしか使われなくなった、24.5mm径(ツァイスサイズ)のアイピースは、なんとかしようと思っても、ほとんど選択の幅がありません。アダプタ(24.5>31.7)を介して31.7mm径(アメリカンサイズ、1.25インチ)にする事は可能ですが、結果的にドローチューブが伸びてしまう為、天頂ミラーや天頂プリズムを使うとピントが出なくなる事が多い様です。(少し前の入門機なら、24.5mmの接眼部分を外すと36.4mm径のネジになっていて、36.4>31.7アダプタをはめてそのまま使える場合もあります)
 3万円前後以上の機種であれば、もう現在はほとんど最初から31.7mm径になっているでしょう。物によっては、巨大な2インチ(50.8mm)アイピースが使える物もあります。
 まぁここでは初心者向け、という事で、1個で3万円とか5万円とか9万5千円とかする様な2インチアイピースはスルーして、現在主流の31.7mmアイピースが使える、という条件で、話を続けましょう。

 31.7mmのアイピースが付属していた場合、ほとんどは「PL」(プローセル、あるいはプローセル・オルソ)という形式のアイピースだと思います。安価な割には万能選手で、意外によく見えます。(たまにハズレなPLを付属しているメーカーもありますが)
 ただ、焦点距離の短いPLだと、覗きにくい、もっと具体的に言うと、睫毛がレンズと擦れるくらい近くに寄らないと見えない、という事は無いですか?
 まぁ24.5mm径のHM(ミッテンゼーハイゲンス)などに比べれば、遙かに覗きやすいとは言えますが、じゃあ「メガネをかけた状態で覗けますか?」となると、さすがにNoでしょう。
 アイピースはそんなもんだ、と思って納得してしまう人もいますが、実は、ビクセンのNLV/LVWアイピースの様に、レンズから20mmくらい離れて覗くのが一番見やすい、というアイピースも存在します(目の位置が高い=ハイ・アイポイントで、”ハイアイ”のアイピースと呼ばれます)。レンズ面から目までの距離を、アイレリーフと呼びますが、LVシリーズは、アイレリーフ20mm、つまりレンズ面から2cm離れて覗くように設計されています。
 ちなみにPLの6mmだと、アイレリーフは3mm位しかありません。よくレンズに睫毛が擦れた汚れが残ります。

 アイレリーフの問題を除いても、アイピースを換えるだけで、土星や木星の縞模様、火星の模様がよく見えるようになった、という事もあります。だからこそ、いろんなメーカーからいろんな種類が出てるんですが。
 メーカーによっても様々な種類・名称がありますが、一般的に惑星に使われる最もオーソドックスな物は、「Or」(オルソスコピック、もしくはアッベ・オルソ)と呼ばれるものです。使い勝手はPLに近いですが、中心付近の解像度が高く、またアッベ・オルソとして比較化をはかっている所のものは、レンズの無反射コーティングに妥協が無く、非常にスッキリした輪郭の締まった像を見ることができます。
 (逆に、「オルソ??」という像の、自称オルソスコピックもあります。「?」が付く時点でオルソでは無いのですが…)

 惑星用のオルソとして定評があるのは、笠井トレーディングアストロプランシリーズでしょうか。HC-Orシリーズも定評がありましたが、現在は生産されていません。高価でも良いなら、ナグラーシリーズの見えの良さは有名です。
 また、安価ながらも質に定評のある谷オルソシリーズもあります。こちらもけっこう有名なので、他サイトのインプレなども探してみて下さい。
 高価なアイピースには望遠鏡本体と負けず劣らずの値段の物もありますが、比較的安価でソツなく種類(焦点距離)を揃えられ、尚且つけっこうよく見える比較的安価なアイピースもあります。(ただ念の為、購入時にはちゃんと組み立てられているか検品してもらう事を忘れずに。)

 あるいは、今度は星雲などを見ようと思った時には、見かけ視野角が90度に迫るような迫力のある広視野なアイピースもあります。テレビューのナグラーEthos(イーソス)は100゜の見かけ視野角を持ちます。ここまで来ると、ある程度、鏡筒との相性を考える必要が出てきますが。
 ※「見かけ視野」とは、アイピースを覗いている人の目にどれくらいの角度の範囲で(いわば擬似的に)見えているかの事で、望遠鏡を使わなかった場合に同じ範囲を見た場合の事は「実視野」と呼びます。実視野=見かけ視野÷倍率で、例えば見かけ視野90゜のアイピースで180倍で見たとしたら、実視野は90÷180=0.5、つまり実際には0.5度の角度の範囲を見ている事になります。
 ただし、超広角アイピースを短焦点鏡筒に組み合わせると、せっかくの広視野も周囲の像が流れたりボケたりして、気分的に広いだけに終わってしまう事もあります。中焦点以上の鏡筒だと問題ない事も多いですが、短焦点鏡筒で使う場合は注意しましょう。

 使い勝手もさることながら、鏡筒の性能を活かすコロスもアイピース次第、と言っても過言ではないでしょう。いえ、ズバリ過言ではありません
 観望会などで色んな鏡筒にいろんなアイピースを付けて覗かせてもらったり、自分の鏡筒やアイピースの数・種類が増えてきて目も肥えてくると次第に気付くようになりますが、アイピースと鏡筒にも相性というのが存在します。他の人が「これはイイ!」と勧めるアイピースを、いざ自分の鏡筒に付けて覗いてみたら「??」なんて事も起きたりします。逆に、他の人が「これはイマイチ」と言っていたアイピースが自分の機材ではよく見える、って事もあります。また意外に個人の主観による所も大きかったりします。
 ヘタをするとアイピース3本で望遠鏡がもう1本買えてしまう勢いですが、アイピースは望遠鏡が替わっても、そのまま継続して使える資産となりますので、あまりケチらない様にしたい所です。(※希にモデルチェンジに伴う安価なアウトレット品や、ほんのちょっとした製造ミスで捨て値で放出される事もあります、天文ショップの通販ページは要チェックです。オークションも定期的に巡回するとお買い得なものが見つかります。)
 同じ形式、例えば名前は同じPLアイピースでも、かなり良く見えるものと、(特に月や木星などで)妙に像が霞んだようにぼやけるものがあったりします。
 レンズの精度が悪いのは論外として、普通はレンズの無反射コーティングの質が関係したりするのですが、中国・台湾で生産されたアイピースの中には、レンズを取りまく部分の無反射艶消し処理(迷光処理)が全然できていない為に、極端にコントラストを落としている事がよくあります(カセグレイン反射鏡筒で特に顕著に出ます)。対物レンズから集められてアイピースに集中してきた光が乱反射する為に霞むのですが、乱反射を防ぐための専用の塗料も販売されています。
 多少、模型の塗装などの経験がある人なら、試してみると良いでしょう。けっこう効果があります。たまに値段の高いアイピースでも、この処理が全然できていない物もあります。

 望遠鏡セットの中には、天頂プリズムもしくは天頂ミラーも付属してくると思いますが、希に「地上プリズム」(正立プリズム)が付属してくる事があります。
 この地上プリズムは、上下が逆に見える天体望遠鏡の像を、きちんと上下そのままにするための物ですが、原則として星を見るときには使わない様にして下さい。
 上下逆の像を正しくする為には、通常、像を4回反射させてやらないといけません(※2回で済ませる松本EMS方式というものもあります、特許取得済です)。反射面の精度が甘いと、4回繰り返して像を悪くする事にもなりますし、当然像も暗くなります。実際、正立プリズムというのは本来高精度で高価なパーツで、オマケで付けられるような物ではありません。またなぜ天体望遠鏡の像が上下逆のままなのかといえば、余計な反射や屈折をさせず、できるだけ像を悪化させないようにした結果なのです。
 天頂ミラーや天頂プリズムも、付属のものから高精度の(ちょっと値段の高い)ものに交換するだけで、いきなり見え具合が良くなる事も少なくありません。この点も注意しましょう。
 たまに、妙に長細い「正立レンズ(地上アダプタ)」が付属してくる事もあります。これは、天体望遠鏡の上下逆になる像を、無理矢理全長を伸ばして(いわばもう一度望遠鏡を通して)また逆にする事で正立像を得ようとする物ですが、これを使うと地上を見るのも論外という酷いものになるので、使い道はゼロと考えて下さい。

 話ついでですが、(きちんとした)正立プリズムを使って、天体望遠鏡を「野鳥観察」など地上風景の観察に使えないか、と思っている人もいるかと思いますが、実際、この使い方は有ります。(鳥屋の間で一番よく知られているのは、トミーテックのBORGでしょうか。造りがしっかりしていて像のキレもいい、WilliamOptics製品も最近人気の様です。)
 フィールドスコープみたいに簡単軽量でも無く、窒素充填の防水という物も存在しませんが、実際に同じ口径のフィールドスコープと見比べると、像のキレがまるで違います。フィールドスコープではかなり難しい高倍率でも像がボケません。写真撮影も得意です。目的や希望など添えて相談してみると良いでしょう。
 但し、あくまでも「望遠鏡」ですので、「望遠レンズ」とは混同しないで下さい。それぞれが求めているのは似て非なるものですので、望遠レンズの常識を望遠鏡に求めると様々なシーンで困った事になります。少なくとも、カメラレンズ的な均質な画像を求める場合は、フラットナーを使用して下さい。(その場合はある程度、中心解像度は犠牲になります。眼視にはフラットナーは使用しません。)
 カメラレンズでは、更に被写体に寄る為にテレコンバータ(テレコン)を使うのが普通ですが、天体望遠鏡にはバローレンズがあります。バローレンズによっては、もしくはバローレンズと撮影アダプタの組み合わせによっては、倍率(合成焦点距離)が可変できる場合もあります。バローレンズによって中心付近の像を事実上トリミングする形にもなりますから、周辺像の乱れの改善にも役立つかもしれません。ここでは詳しい事は割愛しますが、調べてみると面白いでしょう。

 通常上下逆の天体望遠鏡の像を正立像にする為の正立プリズムも各種有りますが、BORGの#7777 EP-1地上プリズムは直視タイプですが比較的安価で像も良く、多くの鏡筒に適合します。通常の使用では、これに#7317もしくは#7314 31.7アイピースホルダと、#7316 31.7→36.4ネジアダプタを組み合わせます(36.4ネジのドローチューブなら#7316を使わなくても付きます)。
 また、笠井トレーディングの90゜DX正立プリズムは必要光路長が短く、像の良さに定評があります。「天体望遠鏡は上下さかさまに見える」というのは半ば常識ですが、アイピースを介さずに一眼レフを取り付けて直焦点撮影(直焦)を行う場合には、普通に正立像になります。眼視での観察の場合に、地上プリズムや正立プリズムの使用を考えて下さい。(天文に慣れてる人は、上下逆でもあまり気にならなかったりしますが)

 一般には45゜の正立プリズムがよく流通していますが、買おうと考えているプリズムの必要光路長を購入前に確認の上、装着を予定している鏡筒のバックフォーカスと照らし合わせてみましょう。買った後に「ピントが出なかった」では自分もショップも困ります。
 天頂ミラーなど何も付けない状態で、野鳥観察の時にいつも野鳥がいるであろう距離の地上物(電柱でも標識でも)にピントを合わせ、そこでドローチューブを何mm伸ばしたかをメモしておきます。アイピースによって微妙に異なり、目標物が近いほどピント位置も伸びます。正立プリズムの必要光路長がこの長さ以内に収まっていればほぼ大丈夫です。一部の、天頂ミラーや天頂プリズムを使用しないといくらドローチューブを伸ばしてもピントが合わないタイプの望遠鏡も、多分大丈夫でしょう(一応確認はしましょう)。もしもギリギリだった場合には、遠方の対象にはピントが出ない可能性が高くなります。
 また、(当然ながら)地上付近を拡大観察するので、地表付近の空気の揺らぎ(かげろう)の影響は強く受けます。そのあたりを踏まえて倍率や口径との兼ね合いを模索してみるのも面白いでしょう。大概は過剰倍率によるボケよりずっと先に、かげろうによるボケの方が強く出てきます。ゆらぎが大きい場合は、口径を絞ってやると改善する事があります。ゆらぎではなく、全体に視界が白く霞むような時は、内側を艶消し黒で塗った紙筒などで作った延長フードを試してみて下さい。
 反射望遠鏡でも可能は可能ですが、持ち運びと湿気や埃、メンテナンスの関係から、適しているとは考えない方がいいでしょう。ニュートン式はバックフォーカスの関係から正立プリズムも使えません。小型のカセグレイン式であれば、実際にフィールドスコープとして採用している物もあり、カメラ用望遠ミラーレンズもこの形式になりますが、あまり小型で安価なものは精度・性能的に避けた方が無難です。

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