4.屈折式と反射式は、どっちが偉いか
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 初めて天体望遠鏡を買おうと思って、カタログをもらってきたり、メーカーサイトや通販サイトで望遠鏡のリストを見ると、だいたい、誰でも疑問に思うんじゃないでしょうか。
 「なんで同じくらいの値段で、屈折望遠鏡と反射望遠鏡が別々にあるんだろう?」
 素朴な疑問ですね。

 素朴な疑問といえば、同じ値段だとしたら、屈折望遠鏡より反射望遠鏡の方が口径が明らかに大きくなります。口径が大きい方が天体望遠鏡として有利なのなら、口径の小さい屈折望遠鏡は何のためにあるんだろう?とか。
 実際、口径15cmの反射望遠鏡と屈折望遠鏡では、屈折望遠鏡の方が数倍高くなります。
(口径15cmの反射望遠鏡は、最近は入門機的な扱いですが、口径15cmの屈折望遠鏡は、ハイアマチュア向けモデルに属します。)

 まぁ、値段の差は、至極単純に「コストの差」です。
 反射望遠鏡は、比較的安価に口径を大きくできます。屈折望遠鏡というかレンズは、そう簡単には大きいものは作れません。世界中の天文台が反射望遠鏡ばかりなのは、「こんな8m以上もあるレンズなんか作れない」って技術的理由でもあります。

 それじゃあ、同じ価格帯の反射望遠鏡と屈折望遠鏡では、何がどう違うの?という話になるかと思います。当然です。
 そもそも、何で反射望遠鏡と屈折望遠鏡が両方ラインナップされているかと言うと、それはもう、ぶっちゃけた話、「完全無欠な望遠鏡は無い」からです。
 そう、一長一短があるんです。

 では、まず長所の方から。
 屈折望遠鏡は、
1.ほとんどの場合、見たいと思った時にすぐ使えます
2.ほぼ最低限の注意だけで、手入れと保管が可能です。
3.小型化しやすいです。
 反射望遠鏡は、
1.大口径化がしやすいです。
2.鏡の反射で光を集めるので、赤や青などの色ずれ(色収差)が起きません
3.大きさに似合わず(中はスカスカなので)軽量です。

 そして、欠点。
 屈折望遠鏡は、
1.大口径化すると、途端に重く(&高額に)なります。
2.レンズの屈折を利用するので、プリズムの様な色ズレ(色収差)が起きやすくなります
 反射望遠鏡だと、
1.比較的頻繁に、鏡の向き(光軸)を調整してやる必要があります。
2.中がスカスカであるが故に、鏡筒と空気の温度に差があると、内部で空気のゆらぎ(筒内気流)が発生して像が安定しません
3.原則として、太陽の観測ができません

 簡単な比較ですが、以上を組み合わせると、屈折望遠鏡は扱い・手入れ・保管がで、反射望遠鏡は少し扱いが神経質になるけど暗い天体には有利、という事がわかると思います。
 つまり、扱いが多少面倒でも、「星雲や星団」なら、反射望遠鏡の方が有利なわけです。しかし、星雲星団はあまり見ない、月・惑星がメインであれば、屈折望遠鏡の方がずっと使いやすくなります。
 屈折望遠鏡は特に色収差を抑える為に、特殊な光学レンズを複数組み合わせ・張り合わせて、うまく収差を抑える努力をしていますが、場合によってはレンズを3〜4枚使ったりしますから、これだけでも重く高額になる事がわかると思います(つまりレンズはパッと見では1枚しか使っていないように見えて、実際は2枚とか3枚とか4枚使っています)。またレンズの軸調整は、各レンズごとに行わなければならないので、通常は製造段階で調整したら、後はユーザーが調整しなくていいorうかつにできない様にしてしまいます。実際、地面に落下させたとかでもなければ、狂う事はまずありません。
 対して、反射望遠鏡はほぼ全ての機種で、レンズの役目をする主鏡(凹面鏡)と、その光を途中で反射させて接眼部に導くための副鏡(平面鏡)の光軸は自分で調整してやる必要があり、この調整次第で見え具合が良くも悪くもなります。(ごく一部の機種以外は、購入直後の時点では光軸は調整されていません。)
 最近はレーザー光を使って、この鏡の調整を簡単に行う「レーザー・コリメータ」という道具もありますから、作業はかなり楽になりましたが、鏡筒と気温との温度差を無くす気温順応という作業自体は、外気にさらして時間を待つしかありません。温度が順応していないと、本当に水中から星を見ているかの様に像が乱れます。気温に対する鏡の熱膨張/収縮が均一にならない間は、光軸がズレている時と同じ様に星像が歪みます。通常サイズの屈折望遠鏡にはほとんどこの現象は出ません(全く出ないわけではないですが)。

 他にも、真ん中に斜鏡がある分、実際の口径をフルに使えているわけではないとか、斜鏡を支えている支持腕(スパイダーと呼ぶ)のせいで明るい恒星などに光条が発生して二重星などが分離しにくくなるとかの弱点もありますが、集光力がものをいうディープスカイや星雲星団銀河を楽しむ人には大口径の反射を好んで使う人が多いのも確かです。

 例えば、ビクセンの初心者向け的ラインナップの中に、ポルタUR130Sf というお手頃価格とお手頃サイズのニュートン反射望遠鏡があります。
 この鏡筒は、通常はドライバーねじを使う事が多い斜鏡調整ネジはかなり細いイモネジで、きちんとした精度のヘキサゴンレンチを使用しないとボルト穴をナメやすく、ナメてしまうと結構苦労します。調整のための工具は付属しません。
 主鏡調整ネジは鉄製の裏蓋に隠されていて、ここでもヘキサゴンレンチ(とドライバ)を使用します。主鏡にはセンターマークなどは付いていないので、マメに手早く調整をしようと思ったら主鏡セルを外して自分で主鏡にセンターマークを入れる必要があります。(現行は出荷時にセンターマークが付いている様です。)また、この鉄の裏蓋が温度を保持しやすかったり筒内の空気の流れが悪かったりで、他のニュートン鏡筒に比べると温度順応に時間がかかる傾向があります。
 斜鏡スパイダーも新品箱出し状態ではテンションが弱く、斜鏡の軸が狂いやすいので適度な増し締めが必要です。接眼部やファインダー台座のネジ・ナットも締め付けが弱くてガタが出てる場合があるので要チェックです。鏡筒前後で鏡筒パイプ自体をリングに固定しているネジも締め付けが弱く、歪みの原因になっています。
 これら全ての対策をしても、まだ更に接眼部自体が薄い樹脂製で強度が無く、鏡筒を真上に向けたり、覗きやすい様に鏡筒を回して接眼部の位置を真横や斜めに向けたりするだけで光軸がズレます。当然、見え具合に直接影響します。樹脂の盛り付け、金属パーツでの補強、もしくは接眼部そのものの移植改造が必要です。(光軸の調整はメーカーに返送して行う事を前提としている感じでもありますが、上記の通り、新品状態でもとても完全状態にはなっていないので、例えメーカーに送っても根本的解決にはならないでしょう。)
 購入しやすい値段と扱いやすいサイズと軽量ボディとそこそこの口径と案外精度のいいミラーを使ってはいるんですが、そのパフォーマンスを正常に発揮させるには、初心者には少々ハードルが高いでしょう。(マニアだと案外よく手を加える部分なので、逆に燃えるかもしれませんが)

 ですから、「初めての望遠鏡」では無理をせずに、手間のかからない屈折望遠鏡を、「2台目以降の望遠鏡」になってから、屈折望遠鏡と長所短所を補完しあえる反射望遠鏡を候補に加えるといいでしょう。
 ステップアップしていくと、今度は反射望遠鏡がメイン・屈折望遠鏡がサブになったり、その時に見たい(撮影したい)対象あるいは出かける場所によって屈折か反射かを選ぶ様になったりもしますから、実際「どっちが偉い」というわけではなく、目的や使用状況によって使い分けるもの、と考えた方がわかりやすいと思います。どうしてもどちらか選ぶ必要がある、という時は、使用目的をはっきりさせましょう。一部には、月・惑星に適した反射望遠鏡や、ディープスカイに適した屈折望遠鏡、というのもあります。

 ときに、「シュミット・カセグレイン」や「マクストフ・カセグレイン」「カタディオプトリック」等の、別名”屈折反射”望遠鏡がありますが、これは屈折望遠鏡の利点と反射望遠鏡の利点を組み合わせるような望遠鏡です。しかし同時に、両方の欠点も持ってしまってます。(構造が複雑、筒内気流が起きる、時々光軸調整が必要等)
 使い方が屈折に近くコンパクトで値段の割に口径が大きいのと、ニュートン式ほど頻繁な光軸調整を必要としない為、初心者向きだと思うかもしれませんが、この形式の光軸調整はニュートン式より難しい為、ほとんどの場合はメーカー送りです。光軸自体も屈折に比べるとズレやすく、更に光軸がズレると途端に見え具合が悪くなるので、ある意味、屈折やニュートン式より神経質です。本体のサイズに比べて焦点距離が長いので、初心者が見て楽しめる星雲星団向きの低倍率は苦手になります。これらの性質を理解した中・上級者向けとも言えます。
 分かりにくいかもしれませんが、要するに「完全無欠な望遠鏡は無い」、って事です。

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