2.何を見たいかをハッキリさせよう
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 初めて天体望遠鏡を買おうと思っている人に「何を見たいの」と聞いて、きちんと答えろという方がムリな話かもしれません。(なら聞くなよ。)
 これは、初めてのパソコン選びと非常に近いものです。「パソコンで何をしたいの」と聞かれた時、最初は、「ネットしたり、DVDの編集したり、デジカメで撮った写真をプリンタで引き延ばしたり、あと初音○クに歌ってもらうのは外せないね」などと夢は膨らむのですが、いざパソコンを買ってみたら、HDD容量が全然足りなくてDVD編集どころじゃなかったり、デジカメ写真のプリントアウトも案外安いものじゃなかったり、マシンパワーが足りなくて初○ミクはまともに動かなかったり、そもそも初音ミ○に歌わせるには相応の音楽知識と能力が必要…で、結局ネット専用機になっちゃった…ってな事、無いですか?無いですか。うちのノートパソコンだけですか。

 天体望遠鏡もそうです。「月のクレーター見て、土星の輪を見て、火星の模様を見て、えーと…その後は、星雲星団をたくさん!」
 予算と、ユーザーの技量があれば可能です。
 天体望遠鏡があれば、普段見えない天体が見えるのは確かですが、見えない天体に望遠鏡を向けるのは基本的に人間です。

 最近は、コンピュータ制御でコントローラーで選んだ星を自動的に「うぃ〜ん」とモーターを動かして自動導入してくれる望遠鏡もありますが、警察犬が何の手がかりもなしにいきなり犯人を捕まえられない様に、ポンと望遠鏡を置いて、いきなり望遠鏡が星を見つけられる訳ではありません。
 基本的には、最初に「アライメント作業」と呼ばれる通常3個ほどの基準星(アライメント・スター)を手動で導入し、コンピュータに「今、望遠鏡はこの星を向いてるんだぞ」と入力・設定して、望遠鏡の位置・仰角・方位角を正確に計算させて設定する必要があります。多くの初心者が、このアライメント作業が必要な事を知らずに自動導入機を購入し、最初の一歩を踏み出す手前で挫折します。
 最近は、それすらもコンピュータが手助けしてくれる、GPS、地磁気センサー、傾斜角センサー、更には目安となるアライメント・スターすら自動で探し出すカメラを内蔵した機種も登場しました。。
 そこまで自動化はしてないけどアライメント作業を大幅に楽にした比較的お手軽な機種もありますが、正確な時刻と観測値の緯度経度を入力してやらないといけなかったりします。操作もなんだかんだで天文知識は必要です。
 そもそも、初心者の予算程度で何でも見える便利で万能な望遠鏡が手に入れられるなら、世界中の天文学者や研究機関は苦労してません。

 そんなわけで、初心者が楽できそうな物イマイチ初心者向きではない、と判明したと思いますので、初心者の身の丈に合った予算と用途で、望遠鏡を選びましょう。そもそもアライメント・スターを探すのに手間取らないような人なら、自動導入なんか無くても、星が楽しめるくらい環境のいい空でなら、メジャーな星雲星団や惑星くらい自力で導入できてしまいます。
 実のところ、初心者が扱いやすいと思う望遠鏡は、上級者にはもっと扱いやすい望遠鏡な訳なので、ここできちんとした物を選んでおけば後々無駄になりません。自動導入には憧れると思いますが、ステップアップした第2段階でどうするか考えましょう。

 ちなみに、筆者は口径300mmの反射望遠鏡や150mmの大型屈折望遠鏡も使いますが、普通サイズの130mmの反射や100mm、80mmの屈折も、小型の66mmや手のひらサイズの25mmの望遠鏡を使う事もあります。それぞれの特性(大きさや重さ、見ようとしている天体に適した倍率や像の明るさ・キレ)と使う場所(家や学校、ビルの屋上、山の中など)によって使い分けていますが、初心者がいきなりそんな種類を揃えるのも無理だと思うので、最初はヘタに万能を求めず、ターゲットを絞って選ぶのがベターです。

 「じゃあ、口径80mmで土星はどれくらい見えるの?」とか「口径60mmで星雲はどれくらい見えるの?」と写真を参考にしようとする人が多いですが、正直なところ、初心者のそういう目的では天体写真は望遠鏡選びの参考にはなりません
 よく言われますが、星雲や星団の写真は何分も何十分も、時には何時間も星を追尾しながら露出し続けた、人間の目には絶対に見えないであろう暗い光まで写せてしまいます。星雲が写真みたいにカラフルに見える事はありません。
 また、月・惑星は、これは面白い事ですが、写真より肉眼で見たほうが綺麗な場合がほとんどです。最近は「コンポジット処理・ウェーブレット変換」などの、何か無意味に強そうなキーワードが付いた月や惑星の写真を雑誌で見ることが増えましたが、これは早い話が「動画をコンピュータで処理して1枚の静止画を作り出して細部を強調した、半分CGですよ」的な意味です。目で見たイメージに近かったり程遠かったり、画像処理のパラメータ次第でかなり変わるので、写真=望遠鏡で見える像、とは言いにくいです。
 まぁ、まずここでは頭の中で望遠鏡を覗いた気分になって、望遠鏡選びをシミュレートしてみましょう。

 大人も子供も大喜び、月・惑星が目的のメインな場合は、非常に選びやすくなります。というのも、多くの初心者向けの天体望遠鏡が、このあたりをきちんと押さえる様に組まれているからです。よく使う倍率は、50〜200倍、といった所です。
 月・惑星メインに絞るとしたら、焦点距離のある程度長い屈折望遠鏡を勧めます。口径は50〜100mmと、予算によっていろいろありますが、中心になっているのは80mmの機種でしょう。
 F値と言って、鏡筒の焦点距離を口径で割った数値があります。口径80mm、焦点距離910mmの超オーソドックスな機種の場合、910÷80=11.375、まぁだいたいF11.4、という感じです。口径70mmの焦点距離600mmなら、600÷70=約8.57で、F8.57、四捨五入でF9としてもいいでしょう。つまりF値が大きくなるほど、望遠鏡(鏡筒)は長くなります。
 このF値の大きい鏡筒は、月・惑星に適正があると考えていいでしょう。(目安なので別に絶対ではありません)

 メジャーな星雲・星団、たまに彗星も期待している場合は、口径は80mmは最低ラインとして欲しい所です。口径が大きいほど、多くを集められるので、より星雲の像もはっきりしてきますし、口径が大きい方が分解能も高くなるので、星団をモヤッとした丸い雲みたいではなく星の点々の集まりに見るためにも口径が必要になります。よく使う倍率はけっこう低めで、20〜120倍くらいです。
 できれば100mmクラスの屈折か、150mmクラス以上の反射、になるでしょう。F値は、F6〜F10あたり、でしょうか。月・惑星を多少犠牲にしていいなら、F値は小さめの方が取り回しが良くなり、星雲星団に適した低倍率も使いやすくなりますが、反面、望遠鏡に求められる精度はシビアになります。惑星や月の強拡大を潔くカットすれば、天体望遠鏡ではなく、大きめの双眼鏡の方が適している場合も多々あります。実際、主に天体用として販売されている双眼鏡も多々あります。(手の平サイズで50倍とか100倍とか出ると謳っているゴミ双眼鏡の事ではありません)
 初心者でも比較的楽に、かつ楽しく観測できる星雲星団に絞ったガイドブックとして、浅田英夫氏の「星雲星団ベストガイド―初心者のためのウォッチングブック」があります。望遠鏡の性能的にも、初心者の目の性能的にも無理の無い観測対象を紹介してあり、お勧めです。

 銀河を目指している場合は、もう口径との勝負になります。選択肢は、口径25cm以上の反射、です。F値はF4〜F6という短焦点な数字になってくるでしょう(それでも十分デカイです)。倍率の目安的には、アンドロメダ銀河で15〜50倍、おとめ座銀河団で20〜100倍あたりでしょうか。とにかく倍率より口径で、どれだけ光が集められるか(+どれだけ空の暗い環境で見られるか)です。
 その際のガイドブックには、「星雲星団ウォッチング―エリア別ガイドマップ」が良いかもしれません。「いや、肉眼でこれは少し無理があるだろ」って星雲まで網羅してあります。
 ちなみに値段的にはまだしも、扱いで初心者向けとして売られてるものはありません。覚悟を決めて飛び込むのもアリでしょうが。

 一応確認しておきますが、星雲星団を見てみたいと思って天体望遠鏡の購入を考えている人は、当然天の川肉眼で見たことはありますよね?
 天の川が見えない様な場所でも天体望遠鏡を使えば星雲星団が見える、と考えているとしたら、まずそこから考え直して下さい。(「天の川がどこに見えるか知らない」という場合は、天体望遠鏡より先に本を買って調べて下さい。)天の川が見えない場所で星雲星団観測は無理!という原則の下に購入計画を立てましょう。(家で見えないなら、近隣で見える、遠征に使える場所があるか探しましょう。)街明かりで空が明るくても大きい望遠鏡なら星雲も見えるというのなら、もっと巨大な天文台の望遠鏡なら昼間でも星雲が見えるって事になりますよね?もちろん、見えません。
 民家の無い山の上まで行けば、60〜80mmのコンパクトな屈折でも写真で見るようなオリオン大星雲の形もちゃんと見えます。宇宙を見るのに本当に必要なのは、高価でデカい望遠鏡ではなく綺麗な星空です。経験すれば必ず納得するでしょう。

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